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2012年5月 6日 (日)

Valve組織論

 またしても、ニューウェルを褒めんのかよ。

 だが、前の記事、その前の記事と妙に通じ合っている話題であるため、どうしても書かなければならない。

 Valveの本来門外不出であるはずの「従業員マニュアル」がネットに流出したというネタ。そしてそれが非常に面白いと評判になっているそうだ。

 伝統的(一般的)日本企業では、いまだ終身雇用・年功序列慣行(制度ではない)が生き残っている場合が多いので、こうしたマニュアルと同種のものはあまり見かけないかもしれない。つまり日本においては、企業文化や社内の掟は一般にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と称される徒弟制度で伝承されるのが建前である。もちろんあくまで建前である。
 日本におけるOJTとは、たいていの場合は夕方に飲み屋で酔っ払った上司が延々と部下に説教することを意味する。オン・ザ・ジョッキ・トレーニング?

 そして「バブル崩壊」のおかげか「ゆとり教育」のおかげかどうかしらないが、最近では誰も退勤後上司につきあわないのが普通だそうだ。徒弟制度崩壊。やっと日本企業も近代化してきた。

 http://games.ign.com/articles/122/1224290p1.html

 ゲーム開発の現場には、従来型の工場組織のようなヒエラルキー(ハイエラルキー)とは異なる組織形態が必要である。Valveのような賢い開発会社はそれを実践している。

 こういう議論は、ずっと前からあるとても陳腐なものなのだ。私もかつてBioWareゲームに見る組織論をブログで書いた。ヘンりー・ミンツバーグ教授(カナダ・マギル大)のパクリでしかないけど。

http://vanitie2.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/da2bioware-c1db.html 

 IGN記事の要点は、ゲーム開発のような「クリエイティヴな」仕事を行ううえでは、フラットな(階層の少ない、あるいはない)組織、ボスのいない組織が望ましい、というものだ。Valveでは(本来的な意味ではボスであるはずの)ゲイヴ・ニューウェルは(本来的な意味での)ボスの役割を意図的に果たしていない。それこそがValveの成功のひとつの理由ではないか。 

 階層のないフラットな組織。いかにも理想的で夢のような組織と感じるだろうか。若者が好きそうっすね。いいっすね、それ、とか言いそう。(記事の後のほうでは、ユートピアン、ユートピア的組織と呼ばれている)
 なんのこたない。欧米、特にヨーロッパの企業に比較すると一般の日本企業の階層は非常に少なく、すでに組織は十分薄いのだ。もしあなたの会社がそうでなければ、それは「一般の日本企業」ではないからだ。それではろくなことになりません。転職をお勧めします。トラスト・ミー。

(もちろん系列会社、関係会社、下請け孫請けの関係まで包含すれば、東京なんとか電力に代表される「一部の」日本企業の階層は限りなく多いのではないか、という指摘はある。残念ながら私もそこまでの範囲に拡大して欧米企業と比較できる材料を持ち合わせていない)

 IGNの論旨に対する反論ではないが、別の視点を一発ぶちこんでおこう。

 それは、他でもないゲイブ・ニューウェルだからこそ成立するのではないか。 

 彼が単にものすごく賢い男であるというだけではなく、巨漢である、百貫でぶであることと関係している。

 どこで読んだか忘れてしまったが(思い出した。内田樹氏の本であった)、かつてアメリカ開拓時代を主導していた伝説の偉人たちの多くは、巨漢、百貫でぶであったそうだ。もちろん、「貫禄」はカリスマを具現化するひとつの形だからもあるだろうし、巨体こそ成功の証であった時代だったのかもしれない。

 だが驚くべきことに、彼らがでかいのはその肉体だけではないという説がある。 
 ある開拓時代の英雄(ダニエル・ブーン)は、自分が住むケンタッキーの居場所から百マイルも離れたところに移住してきたよそ者開拓者たちの「ヤンキーの臭い」がとても耐えられないといって、さらに奥地に引っ越したのだそうだ。

 つまりこの西部開拓時代の英雄のパーソナル・スペース、個人の感知する領域、一般には好ましくないと感じる相手にそれ以上接近されると不快と感じる範囲が半径百マイル以上と、少なくとも今日に生きる者たちのそれとは比較できないくらい、信じられないくらい広かったのではないか、という説である。 

 もちろん私のような凡人には容易には呑み込めない。まるで野生の動物たちの縄張りのような話であるし、パーソナル・スペースは縄張りとの類比で語られることも多い(正しいかどうかは知らない)。
 私にとってはむしろヱヴァでいうATフィールドなんかのほうが観念的に似ていてわかりやすいかもしれない。あちらは距離よりは強度(厚み?)で定義されていたようだが。あるいはオリジナル・ガンダムでいうところのニュータイプの感知する「気」の範囲とか。

 でも通常のパーソナル・スペース論ではたかだか25フィート(7.6メートル)くらいまでを定義している程度である。百マイルというのはちょっと法外な距離だ。

 たとえば現代のストーカー裁判で、処罰される者はハラスメントを受けた者から半径百マイル(約160キロメートル)に近づいてはならないという判決は出ない。いくらアメリカでも出ないんじゃないかなあ(自信はない)。隣町に住んではいけない、くらいはあるのかな。

 IGNの記事にはValveの従業員が思い描いた組織図がいくつかおもしろおかしく書いてあるページの画像がある。そのどれにもゲイブ・ニューウェルはいるはずだが、どこにいてもおかしくないし、あるいはいなくてもおかしくない。 

 私は、ニューウェルのパーソナル・スペースが、Valveの従業員数百名全員の存在を包括して個別に詳細に把握しているのではないかと考える。その領域内に入った不快な相手、あるいは潜在的敵対者の存在を掌握することができるのであれば、領域内の味方、同僚仲間の動静をすべて把握するのも可能なはずだ。 

 そして私はもちろん、そういう才能の持ち主は稀だろう、という前提を置いている。

 Valveにはニューウェルに限らずボス(いわゆる中間管理職)は誰もいない。少なくともそういうヴィジョンがあるという。上のパーソナル・スペースの話が正しければ、Valveに中間管理職はもちろん必要ない。ニューウェルひとりがいればいいわけだ。 

 逆に言えば、ほかのゲーム開発会社がValveの(ニューウェルの)真似をしても効果がないどころか、ただ破綻するだけなのではないか。 

 それでこの話は終わってしまってもいいのだが、記事の中身は結構面白いので、要点だけ訳して読んでみよう。記事を稼ぐために、いったんここまで。

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